最近はモルックというスポーツに時間の多くを費やしている。本当は日本大会後に試合の感想も含めて書きたかったが、台風の影響であえなく中止となったため、早めに投稿する。
とは
モルックとは何か、ということについては、例によって日本モルック協会のリンクを参考にしてほしい。本記事では触れていない基本的なルールについての紹介がある。
また、モルックの魅力をわかりやすく凝縮している動画もYouTubeにいくつか出回っているので、これも観ておくとより理解が深まると思う。
一番下の動画にはちょっとだけ見切れている。
個人的な見解
個人としてモルックの魅力はどういうところか、について。
誰でもできる
まずは、誰でもできる、というところにあると思う。求められる動作は、基本的にモルックと呼ばれる(競技名のモルックなので、モルック棒と言われることが多い)木の棒を投げて3~4メートル先の木の棒のピン(スキットル)を倒す、ということだけなので、大げさでなく老若男女が一緒にプレーすることができる。現に練習会では毎回幅広い年代の参加者が集まっている。そして年齢や男女差に関係なくやればやるほど技術面は素直に向上するので有利不利も生まれにくい。身体的なハンディキャップを持っている人も参加できる。投げて3メートル先に届かなければ転がして倒すことも可能だ。
初心者と中~上級者で異なる魅力がある
初心者にとってはまずスキットルを倒せることそのものが楽しい。投げていると段々と思い通りに倒せるようになってきて、試合では偶然ファインプレーが生まれることがあるので、経験者や上級者にも勝つチャンスがそれなりにあるというのも、門戸が広くとっつきやすい要因となっていると思う。
そして、モルックに慣れてくると、別の魅力が生まれてくる。一つはより遠くのスキットルを倒せるようになったり、スキットルの壁の後ろにあるスキットルを山なりの弾道で狙えるようになったりするといった技術面の向上によるプレーの幅が広がることにある。
もう一つは、戦術面の奥深さにある。50点ちょうどを取らなければいけないルールなので、闇雲に高得点を狙うだけでは勝てず、2手3手先を読み、実際そのとおりに投擲(とうてき)を実行しなければならない。また、ビハインドで追いかけている場合は、相手の50点達成を防ぐためのプレーも遂行する必要がある。
また、細かい話をすると、序盤戦で必要になってくるのは、「スキットルの束を崩さずに得点を重ねる技術」である。例えば、スキットルが11本まとまっていて、1つだけ8番のスキットルが孤立している、という序盤にありがちなケースを想定する。この場合、得点効率としては11本の集団に向かって投げるほうが高い。8点以上を取る可能性はそれなりにあるし、そうでなくても安定して6点以上は見込めるだろう。
しかし、上級者の多くはこの場面で孤立した8番を狙う。その理由は、「相手に楽に点を取らせない」ためである。孤立した8番を狙うのは、外すリスクに得られる得点の見返りがないと思われる。だが、より大きなリスクは、実は集団を崩して12番や11番のような高得点スキットルが孤立し、やすやすと相手に取られてしまうことにあるのだ。そのため、この場面では、自分たちが高得点を取るよりも、相手に高得点を取らせないように戦略を取るのである。この例で8番を取ることによって相手が集団を崩せば、今度はこちらに12番、11番のようなスキットルを取るチャンスが回ってくるのである。
(気が向いたらこのへんを図解する)
初心者が上級者と対峙した際に、「そんなに悪い試合をしているイメージがないのにいつの間にか点差が広がってしまう」というイメージの背景にはこういった戦略面の差が隠れていることが多い。
一つとして同じ試合展開がない
ちょっと大げさに言い過ぎているかもしれないが、モルックの試合には同じ展開がないと言っていいだろう。
スキットルの飛び方、配置のパターンは無数であり、そのパターンそれぞれに対して、さらにプレイヤーの選択や投擲の結果倒せた・倒せなかったという場合分けをしていくと、100試合、200試合やったところで同じ試合展開がやってこないことは容易に想像することができる。
個人的な視野でいうと、この感じはローグライクゲームというジャンルに共通するものがある。有名なのは『風来のシレン』や『トルネコの不思議なダンジョン』、『チョコボの不思議なダンジョン』などに代表される、RPGだがダンジョンに入るたびに地形やアイテム配置などがランダムに構成されるといったゲームである(「100万回できるゲーム」といった宣伝文句がつけられたこともあった)。
毎回ディテールこそ異なるがプレーヤーは感覚的にダンジョンの歩き方、定石を身に着けていくので、やり直していくうちに自然とクリアするための方法論を構築することができる、設計の妙がこのゲームジャンルの魅力であるが、モルックはそれに似ている。細かい試合展開は異なるが共通した戦略の知見を貯めこむことができるので、自然と思い通りにゲームをすすめることができるようになっていくのである。(SNSを俯瞰すると)ボードゲーム好きがモルックに参入するケースもあるようだが、この現象も、こうした成長のロードマップが絶妙な形で敷かれていることにあるのではないだろうか。
自然現象との戦い
モルックはどういった場所でやるのか、ということは規定されていない。今年の世界大会(フランスで開催 )は砂地(学校のグラウンドが近いだろうか)で行われたようだが、10月開催予定だった日本大会は人工芝のフットサル場を借り切って行われるし、凹凸が比較的激しい天然芝の公園でプレーすることもある。天候面でも、雨が降ることもあれば風が強いこともあり、こうした条件面によって面白さやゲームの複雑性に影響がおよぶこともある。次第に、テニスのように「芝には強いけど土はめっきり」みたいな得意不得意が出てくるのかもしれない。個人的には天然芝のランダム性が意外と好きだったりする。
多種多様な投げ方・戦略
まだまだ過渡期であるスポーツでもあるため、投擲のフォームは人によって大きく異なる。両足の置き方やモルックの持ち方、どういう軌道で投げるのかも十人十色である。基本的には地面と水平にして棒を持つが、人によってはいつでも縦に持って投げる。戦略面についても、とにかく大きな点数を片付けるのか、相手のミスをさそって自分達にチャンスを引き込むのか、などの違いがある。ゲームによっては相手が3連続ミスによる失格になる以外勝ち目がない、という場合もあるので、多様な戦略を頭に入れ、臨機応変かつスピーディーに決断することが求められる。フォームの違いには、プレーヤーの哲学が現れることもある。モルックとの向き合い方が投擲にそのまま出るとも言っていい。
モルック練習日誌
自分がモルックを始めたのは今年の9月からだったが、いきなり10月の大会 (冒頭に書いたとおり中止となった)に出ることを決めたので、良い成績を収めるのは難しいと思うがそれなりに練習しよう、ということでほぼ毎日近所の公園で練習することにした。
今回の大会の試合形式がざっくり以下のようなものだったので、それをシミュレートしながらやってみることにした(すべての大会や試合がこのルールで行われているということを意味しない。50点に乗せるなどの基本は共通しているものの、大会会場の事情や時間の制限などは場合によるだろう)。
- 4チームで同時に行う
- どこか1チームが50点ちょうどを取ったらそのゲームは終了
- 2ゲーム行い、合計点が多い2チームが予選通過、次の試合へ進むことができる
世界大会でもだいたい同じようなルールが採用されているみたいだが、このルールの肝は「50点であがったかよりも合計点が評価される点」にあると思う(正確には、合計点が同点の場合はあがった回数が多いほうが評価される)。そのため、勝利しなくても2ゲームそれぞれ40点くらいで安定させれば大抵は2位以内に入ることができるのである。こうなってくると、上述した「相手に点を取らせない」といった定石の戦術に加え、以下に自分たちがそれなりの点数を取るか、ということも考慮しながら各投擲の目標を設定しなければならないのである。
(余談: ルールについて。50点に乗せるのが醍醐味の競技だがそれに対する評価やボーナスが小さいように思えるルール設定だな、と感じなくもないが、世界大会のルールに準じて決めている面もあるのだろうか)
とはいっても、自分は初心者なのでまずは「安定して倒せる射程距離を測り、そこからだんだんとその範囲を広げる」ことを目標として練習を重ねた。一応、どれだけ技術面の向上があったかを見るために、ゲーム形式で行った練習についてはデータを取ることにした。記録したデータは以下のスプレッドシートにまとめており、公開しているので興味があったら参照してみてほしい。
主に記録したものについては、
- エース率
- 「エース」は自分が勝手に作った言葉であり、自分の宣言通りに倒すことを示している。宣言通りなので、その宣言の難易度に関わらずその通りに決めたらエースである、という定義である。
- ミス率
- どこにも当たらなかった確率。宣言通りにいかず2本倒して2点どまり、など広義のミスは他にも考えられるが、とりあえずどれかにあたったらミスの対象外とした。
- 重大なミスの発生回数
- 「重大なミス」として、「50点を超えてしまった回数」「3回連続でミスをして失格になった回数」を個別に記録した。それぞれ、めったに起こることはないとされているが果たしてどれだけの確率で起こりうるのか興味があったため記録することにした。
- 特殊な投げ方の試行回数と成功率
- 普段はモルックの棒を横にもち、地面と平行にして投げるのが通常であるが、場面によっては縦に持ったり(横に持つのは同じでも)逆手に持ったりすることがあるので、そういった特殊な投げ方がどれだけ得意なのかを測るため個別に成功率を記録した。
- 1投目の得点
- モルックはほとんどの場面で1本のみを倒すことが求められるが、1投目に関しては密集しているスキットルをなるべく多く倒すことを目指すので、平均的にどれだけ倒せるのか=どれだけ1投目が得意なのかを検証した。
上記を記録しながら約1ヶ月、計50ゲームに達するまで練習を続けた(下写真: オリジナルのスコア表を作成してそこに書きながらひたすら投げる)。
48ゲームを経た結果
48ゲーム、投擲数にして1500投以上練習した結果、以下のような結果が得られた(スプレッドシートから一部スクショしたものを掲載)。
エース率、ミス率については、中盤でやや成績が落ちたもののその後は改善していったことがグラフ上では読み取ることができるような結果となった。
これに関して記録を取っていた最中の感覚から述べると、中盤で成績が落ちたのも後半で改善したようにみえるのもなんとなくの理由が思い当たる。
前者は、投擲フォームの定着に応じてしっかり腕が振れるようになったこと、およびバウンドしたり転がったりせず直接スキットルに当てられるようになったことで、スキットルがより前方に飛ぶようになったことに起因する。モルックのルールでは倒れて転がったスキットルはその場で起こして以降の投擲を続行するので、つまりはスキットルが飛ぶほど難易度が上がることを意味する。整理すると、飛ばす技術はついたが遠くのスキットルを仕留める技術が追いついていなかったので、数字が悪くなったと考えられる。
後者は、上に挙げた「遠くのスキットルを仕留める技術」がついてきたことと、プレーの方針として倒せるスキットルから倒していく、というスタイルに変えたことが要因だと思われる。予定されていた大会では慣れない人工芝であり、練習よりも緊張感が高まるだろうこと、安定して点数を稼ぐスタイルが恩恵を受けるルールであることを念頭に、なるべく成功率が高い選択肢を取ろうと決め練習にもそれを適用したことで、数字上はメキメキと成長したように見える、という事情がある。まあ技術的にある程度伸びているのも事実だと思うが、それ以上に方針の転換のほうがグラフの動きに貢献しているだろうと考えている。
さらなる検証のために(妄想)
こうしてデータを取っているうちに、別の観点からも検証したくなってきた。例えば以下:
- ゲームを決める投擲を成功させる確率
- 「これを決めれば50点」ということがはっきりしている場合に投擲が成功する確率。なんとなく仕上げが弱い(1発で決められない)ので
- 各投擲目標の距離
- 宣言した目標となるスキットルがどれだけ離れているか。これを取れば、距離別の成功率とミス率を検出することができる(ゲーム形式以外の練習で記録は取ってるけど。機会の多い5メートルだと8割、6.5メートルだと6割ほど)
- ミスをした場合の詳細
- 左右に外れた、スキットルの上を超えた、距離が足らなかった、バウンドして超えた、バウンドして曲がってしまった、などミスのパターンがだいたいわかってきたのでより詳細が欲しい
初級エンジニアとしての視点でこれくらいのデータを取ろうと思うと、手書きのスコアシートでは限界が出てくるのは容易に想像できる。記録用兼スコアシートにもなるアプリケーションを作成して、エクスポートしたJSONやCSVなどからデータベースに登録…といった仕組みが必要になる。データの最小単位としては1投ごとにレコードを作る必要がありそう(確か野球のデータベースもそうだった。1球ごとに球種や速度、その時の審判まで記録しているのだからすごい)。
中上級者になるためには?
自分はまだまだなので分からない。なんとなくで思いつくのは、
- 戦略のパターンを認識する
- 6~7メートルを7割の確率で倒せるようにする
- スキットルを飛ばす投げ方、山なりで優しく倒す投げ方の2球種を最低限習得する
といったところだろうか。
堅守速攻モルック
中身が全く無いがなんとなく「自分は堅守速攻モルックをしています」と言いたい。完全に言葉のニュアンスがかっこいいということだけである。具体性は1つもない。とにかく自分自身のスタイルを確立したい。
チームについて
大会は個人で参加するものとチームを結成して参加するものがある(チームの人数も大会による)。今夏の世界大会は何日かにわたって個人戦、ダブルス、チーム戦などがあったようだ。注目度でいうと見たところチーム戦が本丸と思われる。
自分はまだ固定のチームに参加しておらず、予定されていた大会も個人でエントリーした人同士で期間限定チームを結成して臨む予定だった。次からはどうしようかなーというのはちょっと考えどころ。練習頻度(熱の入り具合)と戦術面の志向が近いと良いかもしれない。
世界大会について
来年は夏に本場フィンランドで開催されるようだ。技術的・実績面での参加条件は特に存在せず、実質的な条件は現地に行く経済力や暇を確保できるか、ということらしい。だからといって下手なままいっても楽しくないと思うので、それまでにどこかの大会か試合でいい成績を収められるくらいにまで成長できたら参加を考えてもいいかもしれない。
まとめ
モルックというスポーツは、初心者がワイワイ楽しむのもよし、中上級者が練りに練った戦略の深みを味わうのもよし、それぞれの段階に合わせた楽しみ方が用意された、広くて深い競技である。唯一のハードルは道具を揃えることかもしれないが、とにかく一度モルックを投げてみて、いつの間にかハマり込む感覚におぼれてしまえばいいと思う。
(この記事を読むとモルックってめんどくさそう、と思うかもしれないが、めんどくさいのは筆者そのものです)