Yuigo・ん・・・湿っぽい

モルック、システムエンジニア、その他趣味。大学生のころから使っているので、昔の記事は恥ずかしいし今の思想とは異なっていることが多いです。

『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」 』自分用メモ

表題の本について、メモを取りながら読んでみました。思うがままにメモを書いたので、おそらく本書を読んでいない人にはまったく伝わらず、読んでいる人でも指摘や「そうじゃないでしょ」はあると思いますが許してください。

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また、図についてKindleのスクショを取りましたが、本記事には載せていません。ご了承ください。


序章 この本の考え方――脱「犬の道」

常識を捨てる

  • 「問題を解く」より「問題を見極める」
  • 「解の質を上げる」より「イシューの質を上げる」
  • 「知れば知るほど知恵が湧く」より「知りすぎるとバカになる」
  • 「1つひとつを速くやる」より「やることを削る」
  • 「数字のケタ数にこだわる」より「答えが出せるかにこだわる」

バリューのある仕事とは何か

「生産性」とは、「どれだけのインプット(投下した労力と時間)で、どれだけのアウトプット(成果)を生み出せたか」

バリューの本質は2つから成り立つ:

  • イシュー度
  • 解の質

イシューとは、以下の2つをともに満たすもの:

  • a matter that is in dispute between two or more parties (2つ以上の集団の間で決着のついていない問題)
  • a vital or unsettled matter (根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題)

イシュー度は、「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」、そして解の質は「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」となる。これらをともに満たすと「バリューのある仕事」となる。

踏み込んではならない「犬の道」

絶対にやってはならないのが、一心不乱に大量の仕事をしてイシュー度と解の質を達成しようとすることである。労働量によってこれを解決しようとするアプローチを、犬の道と呼ぶ。

世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは、実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない。世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒はっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ。

まずはイシュー度を上げ、そのうちに解の質を上げていく。犬の道とは反対のアプローチを採用する。徹底して自己の活動を意味のあること、イシュー度の高い問題に絞る。

「圧倒的に生産性が高い人」のアプローチ

根性に逃げるな

労働時間は評価しない。アウトプットを評価する。

第1章 イシュードリブン 「解く」前に「見極める」

イシューを見極める

犬の道を歩まないためには正しくイシューを見極めることが大切である。「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析を設計していく。分析結果が想定と異なっていても、そればそれで意味のあるアウトプットになる。

イシューを明確にしないと、多くのムダが発生する。「これは何のためにやるのか」という意思統一をして、立ち返る場所を作っておく。何度も立ち返る。

相談する相手を持つ

イシューを見極めるための判断材料:

  • 実際にインパクトがあるか
  • 説得力あるかたちで検証できるか
  • 想定する受け手にそれを伝えられるか

これらにはある程度の経験と「見立てる力」が要る。この場合は頼りになる人に相談するのが手っ取り早い。

仮説を立てる

「スタンスをとる」ことが肝要

強引にでも前倒しで具体的な仮説を立てることが肝心だ。

理由:

  1. イシューに答えを出す
  2. 必要な情報・分析すべきことがわかる
  3. 分析結果の解釈が明確になる

仮説を立てて仕事を与えられることで、自分が何をどこまで調べるべきなのかが明確になる。作業のムダが減ることで生産性が上がる。

何はともあれ「言葉」にする

イシューを言葉で表現することではじめて「自分がそのイシューをどのようにとらえているのか」「何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのか」ということが明確になるからだ。

言葉で明確に表現しないのは、日本人の言語・文化のもつ思考上の特性でもあるので、ここは意図的に訓練することを薦めたい。

言葉で表現するときのポイント

  • 「主語」と「動詞」を入れる
  • 「WHY」より「WHERE」「WHAT」「HOW」
  • 比較表現を入れる

よいイシューの3条件

  1. 本質的な選択肢である
  2. 深い仮説がある
  3. 答えを出せる

①本質的な選択肢である

まずは大きな分岐点を見極める(<店舗数が減っている>のか<1店舗あたりの売上が下がっている>のか)

一見もっともらしい「なんちゃってイシュー」を最初の段階できちんとはじくことが大切、「イシューらしいもの」が本当にそこから答えを出すべきものなのかを立ち返って考える。

イシューは動く標的である。会社ごと、部署ごと、日ごと、個人ごとにイシューは異なる。人によってイシューである・ないが異なる場合もある。イシューの主語を確認し、それを置き換えても成り立つ場合はまだイシューとしての見極めが甘い可能性が高い。

②深い仮説がある

仮説を深くするための定石:

  • 常識を否定する(例:天動説に対する地動説)
  • 「新しい構造」で説明する
    • 共通性の発見
    • 関係性の発見
    • グルーピングの発見
    • ルールの発見

③答えを出せる

「答えを出せる範囲でもっともインパクトのある問い」こそが意味のあるイシューとなる。

分解することで答えを出せる部分が出てくればそこをイシューとして切り出す。

イシュー特定のための情報収集

考えるための材料を入手する

時間をかけ過ぎずに大枠の情報を集め、対象の実態についての肌感覚をもつ。ここでは細かい数字よりも全体としての流れ・構造に着目する。

コツ:

  1. 一次情報に触れる
  2. 基本情報をスキャンする
    1. 数字
    2. 問題意識
    3. フレームワーク
  3. 集めすぎない・知りすぎない

イシュー特定の5つのアプローチ

通常のやり方ではイシューが見つからない場合

再度一次情報に触れ、見識のある人と議論する。これでも無い場合:

  1. 変数を削る
    1. 「商品購買行動」を「デジタル家電」の領域に絞る。さらに「デジカメ」「プリンター」…と絞る
  2. 視覚化する
    1. 図式化、グラフ化
  3. 最終形からたどる
    1. 「最後に何がほしいのか」ということから考える
  4. So What?」を繰り返す
  5. 極端な事例を考える

第2章 仮説ドリブン① イシューを分解し、ストーリーラインを立てる

イシュー分析とは何か

「ストーリーライン」づくりとそれに基づく「絵コンテ」づくりをあわせて「イシュー分析(イシューアナリシス)」という。イシューの構造を明らかにし、そのなかに潜むサブイシューを洗い出すとともに、それに沿った分析のイメージづくりを行う過程だ。

(ストーリーラインと絵コンテは、)最初は、イシュー検討の範囲と内容を明確にするために使い、次の段階では進捗の管理はボトルネックの見極めに生きてくる。最終段階ではプレゼンテーションや論文の仕上げに使い、全体のサマリーそのものになる。

できるだけ早い段階でこれらの一次バージョンをつくる。3、4ヶ月のプロジェクトであれば、最初の週の最後には「1週間目の答え(ワン・ウィーク・アンサー)」をつくるのが理想。

イシュー起点でストーリーを組み立てる

よく見るアプローチ:

  • イシューに関するデータを集めまくり
  • データが出尽くした段階でその意味合いを考え
  • それを並べて、ストーリーを組む

Step1 イシューを分解する

意味のある分解とは

イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すことは難しい。そのため、おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ」にまで分解していく。分解したイシューを「サブイシュー」という。サブイシューを出すことによって、部分ごとの仮説が明確になり、最終的に伝えたいメッセージが明確になっていく。

イシューを分解するときは、

  • ダブりなくもれなく
  • 本質的に意味のある固まりで
    • ゆで卵をスライスしたら意味がないので、黄身と白身に分けるような感じ

砕くことが大切。

「事業コンセプト」の分解

例えば事業コンセプトは、

  • 狙うべき市場ニーズ
  • 事業モデル

に分けられる。更に分解して、

  • 市場ニーズ
    • どのようなセグメントに分かれ、どのような動きがあるか
    • 時代的に留意すべきことはあるか
    • 具体的にどの市場ニーズを狙うべきか

というサブイシューにまで落とし込めば仮説が立てやすくなり、具体的な検討につなげることができる。

イシューを分解する「型」

たとえば上の例題に沿うとこのパターンが多い:

  • WHERE
    • どのような領域を狙うべきか
  • WHAT
    • 具体的にどのような勝ちパターンを築くべきか
  • HOW
    • 具体的な取り組みをどのように実現していくべきか

既存のものに加えて、自分の視点を加えた分解の型を作ると強力になる。

型がないときには「逆算」する

この場合は最後に欲しいものから考える。

商品開発であれば「最後に欲しいもの」は「核となる商品コンセプト」である。つまりは、

1. いつ、誰が、どのような場面で使うものなのか/なぜこれが既存の支払手段より役立つことがあるのか

というもの。

コンセプトの次に必要になるのは、

2. どのようなフィーとコストが発生し、どう役割分担するのか、どう採算を合わせるのか

というエコノミクスの枠組みだろう。さらに、

3. 上記の枠組みに気づき、どのようにシステムを構築し、どのように運用するか

というITシステムの検討も不可欠になる。さらに

4. ネーミング、ブランディング、デザインシステム構築、プロモーション

5. 使用店舗と発行場所の確定と拡大の目標を設計し、推進する→戦略的提携

6. 導入店へのオペレーションと本部のメンテナンス・サポート機能を整備する「店舗支援業務の設計」

このように仮想的にシミュレーションすると、少なくとも6点の検討事項の固まりがあり、それぞれに答えを出すべきイシューがあることがわかる。

イシューを分解する効用

  1. 課題の全体像が見えやすくなる
  2. サブイシューのうち、取り組む優先樹にの高いものが見えやすくなる

分解してそれぞれに仮説を立てる

サブイシューについてもスタンスをとって仮説を立てる。曖昧さを排し、メッセージをすっきりさせることで必要な分析のイメージが明確になる。

サブイシューを洗い出す際には、「何がわかればこの意思決定ができるか」という視点で見る。

Step2. ストーリーラインを組み立てる

分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てる。

典型的なストーリーの流れ:

  • 必要な問題意識・前提となる知識の共有
  • カギとなるイシュー、サブイシューの明確化
  • それぞれのサブイシューについての検討結果
  • それらを総合した意味合いの整理

ストーリーラインが必要になる理由は、①単に分解されたイシューとサブイシューについての仮説だけでは論文やプレゼンにはならないから、②ストーリーの流れによって、以後に必要となる分析の表現方法が変わってくることが多いため。

事業コンセプトのストーリー

事業コンセプトの例に沿うとストーリーは:

  1. 問題の構造
  2. 狙うべき市場ニーズ
  3. 事業モデル
  4. 事業コンセプトの方向性

ストーリーラインの役割

ストーリーラインは検討が進み、サブイシューで答えが出るたびに、あるいは新しい気付き、洞察が得られるたびに、書き換えて磨いていく。

  • 立ち上げ段階
    • 何が見極めどころ(カギとなるサブイシュー)であり、何を検証するためにどのような活動をするのかという目的意識を揃えるため
  • 分析・検討段階
    • イシューに対する仮説の検証がどこまでできているのかが明確になる。分析結果や新しい事実が生まれるたびに肉付けし、刷新する。チームミーティングにも使えるツールになる
  • まとめの段階
    • 最終的な資料を作成するための最大の推進装置。サマリー、最初の要約のベース。

ストーリーラインで明確な言葉にできない考えは、結局のところ人に伝えることができない。

ストーリーラインの2つの型

いずれも、最終的に言いたいことを他の要素で支える形になっている部分で共通している。

WHYの並べ立て

最終的に言いたいメッセージについて、理由や具体的なやり方を「並列的に立てる」。

  • 案件Aに投資すべきだ
  • なぜ、案件Aに魅力があるのか
  • なぜ、案件Aを手掛けるべきなのか
  • なぜ、案件Aを手掛けることができるのか
空・雨・傘
    • 〇〇が問題だ(課題の確認)
    • この問題を解くには、ここを見極めなければならない(課題の深堀り)
    • そうだとすると、こうしよう(結論)

最終的に言いたい傘の部分を、ストーリーによって支える。

第3章 仮説ドリブン② ストーリーを絵コンテにする

絵コンテとは何か

次は分析イメージ(個々のグラフや図表のイメージ)をデザインしていく。「最終的に伝えるべきメッセージ」を考えたとき、自分ならどういう分析結果があれば納得するか、そして相手を納得させられるかと考える。

ストーリーラインは言葉だけなので、具体的なデータのイメージをビジュアルとして組み合わせることで急速に最終的なアウトプットの青写真が見えてくる。

絵コンテづくりのイメージ

基本的には、イシューを分解して並べたストーリーラインに沿って、必要な分析のイメージを並べていったものが絵コンテとなる。

「どんな分析結果がほしいのか」を起点に分析イメージをつくる。「これなら取れそうだ」と思われるデータから分析を設計するのは本末転倒であり、イシューやストーリーラインの作業が無駄になってしまう。

Step1 軸を整理する

分析の本質

軸とは、分析のタテとヨコの広がりを指す。どのような軸でどのような値をどのように比較するか、ということを具体的に設計する。分析とは(さまざまな答えが返ってくるが)比較、すなわち比べることである。フェアに対象同士を比べて、その違いを見ることである。

どのような軸で何と何を比較するとそのイシューに答えが出るのかを考える。

定量分析の3つの型

  1. 比較
  2. 構成
  3. 変化

分析といっても、実際にはこの3つの表現方法しかない。

比較

軸さえうまく選べば力強い分析になる。

構成

全体と部分を比較する。

変化

同じものを時間軸上で比較すること。

分析表現の多様さ

表現方法については多様である。3つの型があるが、それにさらに3つの型をかけ合わせることもできる。

原因と結果から軸を考える

分析は原因側と結果側の掛け算で表現される。比較する条件が原因側で、それを評価する値が結果側となる。この両面をかけ合わせてつくるのが実際の分析である。双方でどのような比較が必要なのか、どれがいちばんきれいな結果が出るのかを絵コンテを描きつつ考える。

分析の軸を出す方法

比較に際しての条件を書き出し、関係あるものを束ねていくというのがシンプルな方法。量を重視して洗い出し、似ているものをグループ化していく。場合によっては、「AかつB」「AでもBでもない」など2つの条件がかかわる場合もある。この関係性を埋めていく方法をとると、考えの「ゆるさ」が減り、急速に分析がすっきりする。

Step2 イメージを具体化する

数字が入ったイメージをつくる

軸の整理が終われば、次は具体的な数字を入れて分析・検討結果のイメージをつくっていく。定量分析の場合、結果の表現方法はおおむねチャートになるはずだが、数字が入ったチャートをイメージで描いていく。そのうち、チャートのうちどの部分が仮説の説明をするにあたり重要なポイントなのかが明らかになってくる。チャートの細かさについては、説明に必要十分な粒度であれば細かすぎなくてもよい。

意味合いを表現する

比較による「意味合い」をはっきりさせることが必要になる。「比べた結果、違いはあるかどうか」、つまり「比較による結果の違い」が明確に表現できていることが「意味合い」を表現するポイントになる。意味合いは具体的に:

  • 差がある
  • 変化がある
  • パターンがある

最終的にほしい「意味合い」を分析イメージとして書き入れていく。分析開始前に必要な結果に対する強い意識を持っていれば、何を分析すればよいのかという道筋がはっきりする。

Step3 方法を明示する

どうやってデータを取るか

どうやってデータを取るのか、という方法を明示する。

  • どんな分析手法を使ってどんな比較を実現するか
  • どんな情報源(データソース)から情報を得るのか

ということを分析イメージの右側に描いていく。大きな発見の前には大きな手法の開発があることが多いが、「ほしい結果」から考えることで新たな手法が発見されるのである。

既存の手法について一通りなじむには、相当な年数がかかる。なじんでいない間は、取り扱えるイシューが制限されないような工夫が必要であり、相談相手をもつことを推奨する。

第4章 アウトプットドリブン 実際の分析を進める

アウトプットを生み出すとは

分析なりチャートをまとめていく段階において、何に留意すべきか。

いきなり飛び込まない

並列するサブイシューのなかで、結論や話の骨格に大きな影響力をもつ部分があり、そこから手を付け、粗くてもよいから、本当にそれが検証できるのかについての答えを出す。その次は、バリューが同じくらいであれば早く終わるものから手をつける。

カギとなるサブイシューを検証する場合は、どちらに結果が転ぼうと意味あいが明確になるタイプの検証を試みるようにする。答えを出そうとしている論点を明確に認識し、右なのか左なのか、それを答えに出す。

理想的な実験とは、論理も実験も簡単で、どんな結果が出ても意義のある結論ができるものである

「答えありき」ではない

各サブイシューについて検証するときには、フェアな姿勢を保つ。都合のよい事実ばかり集めず、対になる主張の論拠となっていることですら実は我々の主張のほうが正しく解釈できる、ということを論証する、ということが「フェア」を意味する。フェアであることが仕事における信用のベースとなる。「木を見て森を見ず」にならないこと。

トラブルをさばく

2つのトラブル

実際に手をつけてみると次々にトラブルが発生する。このような状況でスピードを落とすことなく走り続けているためには、多少の障害物では転ばない工夫が必要になる。

できるだけ前倒しで問題について考えておくこと。なので絵コンテづくりやチャートの想定などをしている。知的生産における段取りを考えること。

トラブル① ほしい数字や証明が出ない

構造化して推定する

一次的なデータからでは結果を導き出せない場合、構造化する力が必要になる。元データから分解なり加工を施すことで、自分たちの求めていた情報を抽出する。

足で稼ぐ

正面から正式な数字が取れなくても、直接ヒアリングするなども有効。

複数のアプローチから推定する

重要な数値の規模感がわからないという場合、複数のアプローチから計算(推定)して値のレベルを知る、というやり方も有効になる。「幅から見る」。

トラブル② 自分の知識や技では埒が明かない

もっとも簡単なのは「人に聞きまくる」こと。聞きまくれる相手がいるというのはスキルの一部である。直接の知り合いでない人からもストーリーを聞けることだってある。

上記が使えない場合は、期限を切って、そこを目安にして解決のめどがつかなければさっさとその手法に見切りをつける。馴染みがあって自信がある手法でも、それでは埒が明かない場合は、さっさと見切りをつける。

軽快に答えを出す

いくつもの手法をもつ

「持っている手札の数」「自分の技となっている手法の豊かさ」がバリューを生み出す人としての資質に直接的に関わる。いくつもの方法を組み合わせたり、既存の手法に自分なりの視点を加えたりすることで、はじめて答えに近づく。

回転率とスピードを重視する

停滞しないことが重要。手早くまとめていく。

停滞を引き起こす要因として、「丁寧にやりすぎる」ことがまず挙げられる。完成度を上げるのには段々と時間がかかるようになるので、60%くらいできたら再度見直し、検証のサイクルを回すことで、単純に60%から80%に引き上げるよりも簡単に80%の完成度を達成することができる。

90%以上の完成度は、ビジネスでも研究でも要求されることはまずない。やりすぎないように意識する。

インパクトのある方法でイシューに答えを出すのは素晴らしいことだが、それ以上に「答えを出せるかどうか」が大切である。さらにもう一つ、「スピード」が重要になる。最終的に使い物になる、受け手に価値があるアウトプットを軽快に生み出すことができる。

第5章 メッセージドリブン 「伝えるもの」をまとめる

「本質的」「シンプル」を実現する

イシュー、それをもとにしたストーリーラインに沿って分析・検証が済んだら、あとはイシューにそったメッセージを人に力強く伝わるかたちでまとめる。

一気に仕上げる

作業に取りかかる前に、「どのような状態になったらこのプロジェクトは終わるのか」という具体的なイメージを描く。「イシュー度」が高く、「解の質」が高いアウトプットを生み出すために何が必要なのか。

アウトプットは聞き手と読み手、自分の知識ギャップを埋めるためにある。受け手に対してアウトプットを通じて次の状態になってもらう:

  1. 意味のある課題を扱っていることを理解してもらう
  2. 最終的なメッセージを理解してもらう
  3. メッセージに納得して、行動に移してもらう

「デルブリュックの教え」によると、

ひとつ、聞き手は完全に無知だと思え ひとつ、聞き手は高度の知性をもつと想定せよ

相手は専門知識をもっていないが、的確な伝え方をすれば必ず理解してくれる存在として信頼する。「賢いが無知」と想定する。

そのうえで、「何(イシュー)に答えをだすのか」という意識をアウトプットの全面に満たしておく。この条件に関する、メッセージを複雑にしうるものはすべて排除する。ムダを削ぎ落とす。

仕上げの段階では「本質的」「シンプル」という2つの視点での磨き込みを行う。

ストーリーラインを磨き込む

3つの確認プロセス

イシューに沿ったメッセージが伝わっているか、という視点でストーリーラインの構造を磨き込む。

  1. 論理構造を確認する
  2. 流れを磨く
  3. エレベータテストの備える

プロセス① 論理構造を確認する

全体の構造を見直しながら、構造上不要になった部分を剥ぎ取っていく。整理が難しくなった場合、枠組みとなる構造を変えたら整理できるか試してみる(「空・雨・傘」→「WHYの並び立て」またはその逆に変えてみる)。

話の流れや比較検討に使用したフレームワークがあれば、これも図としてまとめる。ただし、話全体の構造として使うフレームワークは極力一つにまとめないと、理解度を落とすことになる。

プロセス② 流れを磨く

優れたプレゼンテーションは、「ひとつのテーマから次々とカギになるサブイシューが広がり、流れを見失うことなく思考が広がっていく」。リハーサルをやりながら手を入れていく方法を推奨する。最初は紙芝居形式で進めて粗を減らしていき、次に実際の聞き手をおいて本番に近いリハーサルを敢行する。できるだけテーマを直接知らない人がよい。

論理の構造や分析・チャートの表現が明瞭なはずなのに説明がしにくい、というときはストーリーラインの流れに不要なものが混ざっている可能性が高い。聞いていて引っかかる部分を修正対象にする。

プロセス③ エレベータテストに備える

20〜30秒で複雑な事項について伝えることを想定してトレーニングする。これまでの作業が適切に行われていれば、新たに考えるべき事柄は多くないはず。時間が限られるので自ずと「何をどの粒度まで伝えるべきか」を判断できる。

チャートを磨き込む

優れたチャートと磨き込みのコツ

チャートは以下で構成される:

  • メッセージ
  • タイトル
  • サポート

優れたチャートが満たすべき条件:

  • イシューに沿ったメッセージがある
  • (サポート部分の)縦と横の広がりに意味がある
  • サポートがメッセージを支えている

チャートを磨き込むために、優れたチャートの条件に対応した作業:

  • 1チャート・1メッセージを徹底する
  • 縦と横の比較軸を磨く
  • メッセージと分析表現を揃える

コツ① 1チャート・1メッセージを徹底する

メッセージは「このチャートで何を言いたいのか」を、主語と動詞を曖昧にせず明確、具体的にする。また「何を言わないのか」も重要である。2つのメッセージがある場合はチャートを分割する。

まとめたものの価値を判断するのは、大抵忙しく・自分に自信をもつ人たちであり、序盤で惹きつけることができなければ挽回はほぼ期待できない。

どんな説明もこれ以上できないほど簡単にしろ。それでも人はわからないというものだ。そして自分が理解できなければ、それをつくった人間のことをバカだと思うものだ。人は決して自分の頭が悪いなんて思わない

コツ② 縦と横の比較軸を磨く

  • 軸の選択をフェアにする
  • 軸の順序に意味をもたせる
  • 軸を統合・合成する
  • 軸の切り口を見直す

分析の軸はこれまでのプロセスで決めているが、実は分析結果を踏まえないとわからないこともある。その場合は回転率を上げる段階、もしくはこの仕上げ段階で拾い上げる。

コツ③ メッセージと分析表現を揃える

この分析(サポート)で本当にこのメッセージが明確に検証できるかをチェックする。

仮説をもち、絵コンテづくりをした上で分析・検証すると、その結果は想定とは完全には一致しないのが普通である。その微妙なズレ自体が貴重な情報となるので、イシューに沿った形でメッセージを明確にしながら、そうした情報を加えて分析表現を磨き込んでいく。そうした結果、単なるデータの集積ではなく、本当に何かをつたえるためのチャートが生まれる。

おわりに 「毎日の小さな成功」からはじめよう

研修の終了後にはたしかに伝えたいことに納得してくれるようだが、参加者のなかには、完全に腑に落ちない人がいる。その場合以下のように答えている:

僕は今、自分にできる限りの深いレベルまで、知的生産におけるシンプルな本質を伝えた。あとは、あなたが自分で経験する以外の方法はないはずだ